ドロップの歌。/かのこ
 
あ、隣のオジさんの呼吸 
ああ、濡れた、大きな荷物
ああ、にがてな整髪料の匂い
ああ・・・濡れた、ビニール傘

ひっそりと、嫌悪している。


おりこうさんは
みんな雨がきらい。
満員電車の中で
胃腸をひっかきまわしてる。

傘の上と
傘の下で 踊ってる
あの人たちはだれだろう。


ぴちぴち
ちゃぷちゃぷ
らんらん   らん。

ぴちぴち
ちゃぷちゃぷ
らんらん   らん。



いいかい。
私たちは、こうしておなじ空間にいるけれども
生まれた世界ははるか遠く、かけ離れ過ぎた。
いちど、その深いラインを乗り越えたなら、
私たちは、これから歩もうとしていた道も
見事に、踏みはずすんだから。
あんなに強かった、あの人でも
あんなに綺麗だった、あの子でも。

あの人たちは、だれでもないよ。


この街には、雪は降らないし
飴も降らない。

ただ、雨だけが降る。

だれかが歌ってる。


ぴちぴち
ちゃぷちゃぷ
らんらん   らん。
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