蝉/秀の秋
 
 蝉の鳴声があらゆる方向から聞こえてくる。
 土用の丑の日とかいう頃になると毎年同じことを考える。
 蝉は1年とか、3年、5年、あるいは17年、
 土の中にいる種がいて、ほとんど同時に地上に出てきて
 1週間あるいは10日あまりで死んでゆく。

 長い長い土の中での時間と地上に出てからの
 この極端な時間的アンバランス。
 人の目からは異常と見えるのだが
 それが蝉の生き方あるいは生存戦略というものなのだろう。
   
 いまさっき羽化したばかりの蝉が
 バタバタと不器用な飛び方で飛んで行く
 短く限られた中での相手を求めて。
 そういえば、秋に遡上するマスは川の上流で
 産卵・受精すると身体がボロボロになり、力尽きて死に、
 カマキリの雄は、交尾のあと雌に食べられて死んでいくとか。

 数百万種と言われるこの地球上の生物種のそれぞれが
 生き残りに命をかけ、次世代に命を繋ごうとしている。
 そして生物の1つの種である人間も
 命をつなごうとする欲求が最も強い欲求なのだろうね。

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