無の絵画展/乾 加津也
美術展巡りが趣味だから招待状は珍しくないが、無の絵画展とはからかわれたものだ、初めて訪れた会場は歴史的格式もある重厚なホールだった
高い壁面は淡く白く、波打つことを拒絶しながら横にどこまでも続いている
天井端に、展示物をやさしく浮かび上がらせる小さな間接照明が等間隔に設置され、壁の肌(おもて)をあたためている
がやはり、展示物は一枚もない
ほんとうなら趣向を凝らしたデッサンや彩色の舞踏が、大嵐をなだめる整然の号令にのって、観覧者たちの脳内を高尚な精神安定に導いてほしいところだ
各展示室の要所要所には動かない監視員がいた、簡易の椅子に臀部をおろして浅く腰かけ膝を山折り谷
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