夏、と言ったら、海/村乃枯草
 

と言ったら


ビーチパラソルは無く
海の家も無く
砂だけがある浜を
海水パンツ一丁で
海水に突入していく

はずはなかった
私の出身地は山間で
山から切りだされた木を
削る製材所が点点としていた
直径1メートルの丸鋸
切られる丸太が上げる音は
エンジン音をかき消すほど甲高かった

「危ないから近寄るんじゃないよ」
と言い含められていたけれど
ただ在るものが何者かになる瞬間を
見て飽きることはなかった

海は
大人になってからの夢だった
すきなときに海に行ける身分になりたい
と山の向こうはなにも見えない故郷で思った
想像の中の砂浜は

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