夜、幽霊がすべっていった……/岡部淳太郎
 
地はない
   (割れる皿)
ただ
   (犬の星の光は確実に届いて)
ただ
   (青い星の闇は交替して)
すべってゆくだけで
   (括弧つきの炎)
何ひとつ思うことはなく
   (括弧つきの過去)
それが彼 あるいは彼女であるということ
   (カーペットが毛羽だつ)
そこに疑問の余地はない
   (身の毛もよだつ)
夜明け前の一時間は
静かだ
   (たったそれだけ)

そしてすべる
   (僕は何もしなかったのに)
そしてすべる
   (何ひとつ生きたためしがないのに)
もうすぐ夜が明けて
   (そこに疑問の余地はない)
朝刊のざわめき
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