さくらんぼ泥棒/りゅうのあくび
予定だった
手紙を父に手渡しで送って欲しい
そして返事が出来るかどうかを
見てきて欲しい
事情を伝えて
お礼を済ませると
少し元気になった
病室の女友達に再び
話しに行くことにする
その女友達は
危篤の状態であった
何とか一命は取り留めたと
背の高い看護師から聴いて
手術の成功を祈っているあいだ
病院に電話が
郵便室の青年から架かって来た
お父さんは
介護師さんが
面倒を見ていますが
意識ははっきりとしています
返事もその介護師さんが
代筆してくれました
今は元気です
との連絡だった
青年に宛て
さくらんぼ一房を封筒に
そっと入れて感謝の手紙を送る
女友達からは
手術がうまくいって
快気したという連絡が入る
病院の桜は
小さくて紅い
ふた粒で一房のさくらんぼを
たくさんぶら下げながら
今でも記憶のなかで
とても甘酸っぱい匂いがする
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