ガーネット/佐々宝砂
 
なんだか重いな寝苦しいなと思うと
大きなわけのわからない生き物が
胸にのっているんです
そんなことが毎日です。

ふうっと煙草の煙を吐いて
彼女はティーカップにくちびるを寄せ
とつぜん苦くて硬いものを噛んでしまったみたいに
白い顔をゆがめる。

大きな生き物は性的隠喩かもしれないけれど
ぼくはあまりそう思いたくなくて
火星にあったかもしれない海を思い浮かべ
そこに大きなわけのわからないクリーチャーを漂わせてみる、

クリーチャーには顔があって
それはもちろん彼女の顔にうりふたつだ。

ルビーより暗く
夕焼けより悪辣で
カットしなくても端正で完全な十二面体の
火星の赤が彼女の首にひかる。
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