屋根裏部屋で「し」を作る/為平 澪
 


私はこの猫を屋根裏でしか飼えないように飼育した
始めは独りに戻りたいと おかっぱ頭の影を懐かしみ 
白い昼に憧れて いつも、もじもじしていたが
夜になると猫は猫らしく長い爪をニョキッと、出して 
私が卵を産むあたりを おし広げてはくすぐり続け
私がニャアニャアニャア、と啼けば遊びに夢中になって
卵を産めと ゆすぶり、せかす

                 ※

屋根裏部屋の鍵は猫がさしこむ、私はそれを上手にまわす、
扉は赤い両目から開かれる、そして黄色い卵が空に昇るとき
私たちがついた「嘘」を「月」で割る
あの夜空の月が私と猫がつくりあげた、「し」だとは知らない人々は
月に向かって 詩を作る

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