良心/もり
「暑いよ、暑いよぅ」
振り向けば
声の主はキャベツらしかった
東八通りでおれは
扉が透けた
コインロッカーのようなものに
入れられたキャベツに
助けを求められていた
これが新型 良心市ってやつか
たしかに・・ 良心が痛む
おれが百円を投入して
その扉を開けてやれば
キャベツはふたたび
シャバの空気を吸える
おれは背中に妙な汗をかいていた
だってキャベツなど、本当に いらんのだ
しかし、だからといって
拷問を受けているこいつを
見殺しにすれば
良心の呵責に苛まれるのは
明らかだった・・
おれは、キャベツを買った
否、キャベツを脱獄させた
これから彼女の家に行くのに
ムードもへったくれもない
萎びたキャベツが
旅のお供に加わった
その晩 彼女の家で
キャベツは見事
回鍋肉に生まれ変わり
おれの胃袋で 安らかに眠った
翌日 帰宅するために
またその道を通れば
今度は三匹のキャベツが
うめき声を上げていた
おれは、ため息をついた
それから
家に金属バットがあることを
思い出していた
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