涙くらい流すべきなのだ/栗山透
 
夜が全ての輝きを
取り払ってしまったあと
残されていたのは
いくらかの金と、脂肪と
ありあまる欲望だけだった

この街の空はいつも背が高い
雲ひとつない嫌味なほど健やかな青

僕は、向こう側を見たかった
目を凝らしてずっと、凝らして凝らして
でも、欠片ほども見つからない
まるで始めから無かったみたいに

今、隣には誰も居ない
そこにいた
過去には確かに存在した
自分と誰かだったにんげんに対して
僕は深々と、三度、お辞儀をする

「太陽さんさようなら」
「お月さんこんばんは」

子どもの頃みたいに
大声で歌えばいいのか

ねぇ

また朝がきた
切り離して考えなければならない
昨日までと、今日とでは
全く違うのだ

隣には、誰も居ない
黒髪の少女はまだベッドで寝ている
破けそうなほど、柔らかい肌
まだ、両手に感覚が遺っている

涙くらい、流せばいいのに

僕の浅はかな欲望に
君は涙くらい流すべきなのだ
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