知らない/栗山透
 
僕はスマホに手を伸ばしたまま彼女の整った眉毛をしばらく眺めた。

彼女は、いつもちがう服を着て、いつもちがう音楽を聴いている気がする。空気を圧縮した音楽。森や湖をそのまま音にしたような曲を好む。

ベースが上手いだとか、ギターが下手だとか、そういうことは一切気にしない。というかほとんど分からないらしい。でも心地いい音楽を選ぶ耳を持っている。

僕は集中力が途切れてしまったので本を閉じて背筋をぴんと伸ばし彼女のほうを眺める。彼女はそれに気づかず本を読み続けている。

髪の毛のいっぽんいっぽんを
閉じられた口元を
浮きでた鎖骨と首すじを
ニットセーターの膨らんだ胸元を

僕はただ眺める。

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