黒円(小説)/幽
ってその極彩色の空洞の中へと飛び込んでしまった。すると・・・男の体が徐々に透けて・・・消え始めた。なんだ、これは、と男は慌てた。男はてっきり新しい美しい世界へ転生するのだと思い込んでいたのである。男の体がゆっくりと、何か牛乳にでも水を入れて薄めるように濁った肉体が透明になっていく。そして・・・なんだか意識もぼんやりし始めた。その時、初めて男の聴覚にある言葉が囁かれた。何かの機械音のように高い声で「ユートピア、ユートピア・・・」と。そう、男はユートピアに行こうとした。だが次の瞬間、男は学生時代に習ったユートピアの語源のギリシァ語を思い出した。確か・・・ギリシァ語原義では、否定詞ウー(〜では無い)+ト
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