黒円(小説)/幽
そのものの在り難さを忘れてしまっていた。しかし・・・時に「ユートピア」への逃亡へと人は駆り立てられる。その衝動のせいで男の存在は、男自身が存在したという記憶をも全てひっくるめて全体的になくなってしまうのである。そして・・・そのためにこの草稿も、いずれあなたの目の前で跡形もなく消え去ることは時間の問題であると言えよう。そして結局黒円の「存在」とは・・・謎であり、ただ一人の男の存在が抹消されたという、その後確証しようもない事象だけが起こったのである。
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