黒円(小説)/
 
今後の学費、生活、その他諸々の諸問題を話された。だが、その際にも黒円は男の前から消えてはくれなかった。それだけではなく、空洞の中では何か極彩色の花が咲いていた。それが二つに割れたかと思うと割れ目から次々と芽が出、花が咲いていくのであった。そして更に分裂し、増殖していく。男はその余りの美しさに目眩がした。結局妻の言葉は男の耳には届かなかった。
 
 翌日男は会社に出向くことを妻に約束して家を出た。しかし、気持ちは最早この世に向いてはいなかった。男はどうしてもこの黒円の世界へ行きたいと思うようになっていたのである。今日も黒円は男にぴったりとくっついてくる。そしていつもの公園へ着いた男は、思い切って
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