黒円(小説)/
 
っていた。特に男は家庭では口数の少ない方である。更に口数が減ったところで、彼女の毎日の生活の中では気にも留められず忙殺されてしまうであろう。男は公園のベンチに腰かけながら黒円の空洞の映像を覗き込むようにしていた。そして思わず、その時手を伸ばした。すると、空洞の中へと手が吸い込まれていくではないか。慌てて引っ込めた。手をまじまじと見るが、何の変化もない。やはり多少男は恐怖を感じてそれ以来手を伸ばすことは気をつけるようになった。
 
 しかし、全てが白日のもとに晒される日がやってきた。会社へ通っていないことが妻にバレたのである。当然だが妻は激怒した。そして明々白々な事実である長男の受験のこと、今後
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