藁を掴む/青井
に語る
通訳でさえ訛りがひどくて
意思の疎通もやっとこさという地で
現地工場を立ち上げるというのだから
とにかく現場に足しげく通って
情報を集めるしかありませんでした
もちろん両手に藁を掴みながらですがねと
そこで笑いを挟んで画面はスタジオへ戻る
コメンテーターは右手の藁を振りながら
まさに彼は革命家ですと熱弁をふるっているところへ
ああもうドラマ始まっちゃうと娘が言って
ソファで寝こける父親の手からリモコンを奪うと
チャンネルが変わり舞台は近未来の都市
人間はあらゆる仕事をアンドロイドに押し付け
自らは藁をもてあそんで暮らしていた
するとある一体のアンドロイドが反乱を起こし
人間たちから藁を奪ったところで停止ボタンを押して
監督が助監督を呼びつける
ここの編集なんとかならないのかと
苛立たしそうに藁を振って監督が怒鳴るが
助監督は昨夜の同窓会で飲みすぎて
うっかり藁を駅のトイレで落として失くしていたので
すっかり情報に溺れてしまい
もがき苦しむばかりで何も答えられなかった
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