恐怖と悲しみ/なをり
 
人がいる
手をつないで目を細めている
同じ方向にゆっくりと進んでいく
心地よい風が追い立てているのだ
僕はそれを拒否する

布団で目が覚めて
母親 もしくは同じくらい大事な人を
二時間も待たせていることに気づいて
餌をやり忘れたような気持ちで
真っ青になりながら洗面所に向かい
暗い浴室にうなだれる彼女を見て息が止まる
母は振り返り胸に抱いた洗濯物を僕に押し付けたが
それはすべて床に落ちて 
僕は声を一ミリも出さずに嗚咽した

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