ナボコフ『青白い炎』第一篇・試訳/春日線香
片耳はイタリアに、片目はスペインに
洞窟の中を血は流れ、脳は星となって瞬いた。
わたしの三畳紀は鈍く鼓動した。
更新世のはじめには目の端で輝く緑の斑点が
石器時代には氷のような悪寒が
そして肘の先の骨には未来のすべてがあった。
ある冬の間、いつも午後になると
そうした束の間の夢想に浸っていた。
いつしか夢は途絶えた。思い出もかすんでしまった。
わたしは健やかに育ち、泳ぎを教わりさえした。
けれども、汚れのない舌を用いることで
売女のみじめな欲情を慰めるよう強いられた小僧っ子みたいに
わたしは堕落し、脅かされ、誘惑された。
老医師のコルト氏が
募りゆく痛みの大半は取り除いたと明言してくれたのに
驚異の念はいまだ冷めやらず、恥辱は残り続けた。
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