flamingo/mizunomadoka
裏通りの汚れた酒場の階段で
少女が泣いてる
馬鹿みたいな拳銃を下げた警官に
殴られた左瞼を腫らして
「断らずに寝ればよかったんだ」
「そんなことしたら赤ちゃんが死んじゃう」
「死なないさ」
「死ぬわ」
マリファナに火を点けて差し出す
女は首を振る
水滴が額に落ちる
「あんたが泣くから雨が降り出した」
「雨の真似をして人は泣くのよ」
「学校の先生みたいだな」
彼女は驚いてやっと微笑んだ
「それが私の夢だったの」
「お似合いだ」
「本当にそう思う?」
「ああ」
「あたしこの子の先生になるわ。もちろん」
ふくらみかけた腹をさする
「母親にもなるけど」
「なら身体を冷やすのは毒だな」
彼女に50ドルを渡す
「部屋を取っといてくれ。チャイナでいいか?」
「バーガーが食べたい」
「わかった」
背を向け歩き出し振り返ると
少女は立ち上がったところだった
俺は思った。その子供は生まれないだろう
俺は心から思った。その子が無事に生まれ
母親になった少女といつまでも
幸せに暮らせるようにと
戻る 編 削 Point(2)