葬列/伊藤 大樹
 
今朝 浅い眠りから目覚めると
私のとなりで 私が死んでいた
汗ばんだ肉体
ずいぶんと後味の悪い覚醒だった

白墨で書いた 黒板の文字
この癖のある字は 英語教師Nの字だ
仲間はずれにされた ドッジボール
下手くそな投球は誰にも当たらない
とってつけたような存在の軽さに必死に耐えていた

目覚めたあと しばらく茫然として
六年間分の砂時計の砂が 目の前でさらさらと音を立てて
ものすごい速度で尽きていくのを ただ眺めていた
私にはもう書くことしか残されていない
一番嫌な思い出の一番濃い部分
耳をふさいだ 一番重いあの靴音

夢がひととおり流れ去ったあとで
苦々しい茶を飲んだ
シーツには一滴の血痕もついてない
安らかな死に顔の 安らかな唖(おし)
せめてもの花を添えて
ひそかな葬列をひとり組んだ
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