逃げ水/伊藤 大樹
 
風と波とが ゆらめきながら
私を冒す
もどかしさが 私の中で爆発しそうに煮え滾る

結晶化し始めた世界で
私はおぼつかない存在になる
そこに立って 信号が青になるのを待っていた
今では私の幽霊が 波打際で溺れている

私は影だ
しかし影は私ではない
私は ゆらぐ
私は もっと逃げる

私に 羽をください 帆をください
飛ぶためではなく 航海するためでもなく 堕ちるために
紡ぎあって噤みあった 宝の眠る海
やがてすべてが もう一度なつかしくなる
夜にはわたしたち 少しだけさみしがりたいのかもしれない
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