森を出る/カワグチタケシ
。
僕らにできるのは落葉の下から聞こえてくる小さな歌に耳をすますことだけだ。
森は昆虫たちのバトルフィールドだ。
僕らの片言の思念では到達できない場所で、小さな裏切りと殺戮が絶えまなく
繰り返されている。
やがて西の方角から、陽の沈む音が聞こえてくる。陽の沈む音は徐々に形を
明らかにし、昆虫たちの争いの歌にとって代わる。そして夜が落葉の下にも
静寂を連れてくる。
森を一歩出て信号を渡ればそこは、希望と善意が乱雑に交錯する、人間と
車輪のバトルフィールドだ。
西の高層建築に半月が沈み、季節が90度回転する。
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