甲虫たちは間違える ? the out of control/ホロウ・シカエルボク
く、ただ俺の正面で歩みを止め、俺の顔をじっと見上げている…時間は巨大な甲虫の群れ、そのほとんどは無意味に無価値に、己の愚考のせいで潰れていく、時間とは本来そういうものだ―そして虫は地面に爪先を擦りつけ、不愉快な音を立てる、黒板を引っ掻くような、あの音だ…俺は黙ってやつのすることを眺めている、もう問いかけは無意味なのだ、きっと…
やがて甲虫は俺の前に綺麗に磨がれた爪先を差し出す、それは陶器のように丸く穏やかな形をしている、俺は無意識に腕を差し出す、甲虫は滑る爪先でバランスを崩さぬようしっかりと一歩一歩を確かめながら俺の腕を登り、さっきと同じように俺の顔に止まり目の中を覗き込む、俺ももう何を思うこともなく甲虫の目を覗き込む、どれくらいそうしていただろうか、ある瞬間、本当にほんの一瞬のことだった、彼の意識と俺の意識が境界をなくして溶け合うような感覚があった、気付くと彼の姿はなく、俺の傷は癒え、清潔なシャツを着て佇んでいるそこは間違いなく現実という感触だった。
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