椅子の前に/GGP
椅子の前に座って、ずっと椅子を
眺めているのだけれども、
いっさい椅子は何も語りかけては来ない。
師匠は、椅子は語るのだ。
椅子の声を聞きなさいといって死んだ。
僕は師匠に椅子のことについていろいろ教わったが、
僕の作った椅子の事をたったひとつたりとも
褒めてくれる事はなかった。
ただ、一番初めに弟子入りした時、
お前は椅子と語り合えるかもしれないな、
といってくれた事がある。
しかし、もうその頃の師匠は昼間からウイスキィばかり
飲んで、意味のわからない小説を読み聞かせ、
カセットテープにレコーディングして僕にくれたりする、
要するに、なんでもありの奇人だったから、
その言葉について信憑性はひとかけらもないと思っている。
椅子が語るわけがない。
それが僕の答えだ。
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