食べる 二編/乾 加津也
 
パンが食べたい


結婚して子供をもうけたが
三十過ぎに発覚した病が原因で離婚
その後は親もとで闘病生活の女性を担当している
駅前のマクドナルドで聞いた
きみの近況

脳下垂体の異常のために
食べたものを呑み込めば肺に入ってしまう
日々の情緒障害もあって、母親にもかなりの心痛を与えるのだそうだ
胃瘻で食べられないなら死んだ方がましと訴えるひとは
毎日、パンが食べたいと懇願する

秀でた映画監督やミュージシャンが
才能の枯渇を理由に自死することもある
生きるための
最低限さえ許されない人にすればなんて贅沢な死に方か
怒りさえこみ上げるだろうねと
軽く、ことばに
[次のページ]
戻る   Point(22)