食べる 二編/乾 加津也
パンが食べたい
結婚して子供をもうけたが
三十過ぎに発覚した病が原因で離婚
その後は親もとで闘病生活の女性を担当している
駅前のマクドナルドで聞いた
きみの近況
脳下垂体の異常のために
食べたものを呑み込めば肺に入ってしまう
日々の情緒障害もあって、母親にもかなりの心痛を与えるのだそうだ
胃瘻で食べられないなら死んだ方がましと訴えるひとは
毎日、パンが食べたいと懇願する
秀でた映画監督やミュージシャンが
才能の枯渇を理由に自死することもある
生きるための
最低限さえ許されない人にすればなんて贅沢な死に方か
怒りさえこみ上げるだろうねと
軽く、ことばに
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