日常の景色。/梓ゆい
父と過ごす最後の時まで
離れまいと決めた早朝。
冷えきった畳部屋であぐらをかき
ゆっくりと茶をすする父がいると
何気なく思う。
眠ったままの父をみつめ
正座を崩してそこに座れば
「あぐらをかくんじゃない。」と
すぐ横でお叱りが聞こえる。
父はこれから目を覚ます。いつものように起き上がりよろけながらも
私に「おはよう。」と返す。
何処かでそう考えた。
冷たい唇にそっと口づけをする母の愛。
そっと額に手をあてて
「おはよう、お父さん。今日も寒いね。」と
いつもと同じように話しかける。
大分冷たくなった父の首筋が
一緒に食べた特売のロースと同じ感触で
冷凍庫な中身を
一つも残さず処分したくなった。
(溶けた庭の雪。水溜まりが出来そうなはしっこの花壇。)
昼過ぎに差す光が
父の手の温もりのように
別れ支度(わかれじたく)をする妻と娘を
優しく照らす。
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