山林の詩/山人
 
が呟くのだ

いくつかの物語を静かに語るように鳴く蟋蟀の音
もの思いにふける枯れ草
かつて田であったであろう荒廃地
下草や小藪をはべらせて
大きく手を広げる鬼ぐるみの樹


生きるとはこのようなものなのだよ
カラスはゆさゆさと羽音を揺らし
杉の天辺から天辺へとわたり行く

山は流血している
汚らしい内臓を曝け出し
そして。
いつ戦いは終わるのだろうか
私は大きな田へと続く農道を
意味もなく歩いていた



「枝打ち」
ぽつねんと離れた高台にある林道の脇に車を止める
さびれた初冬の枯れススキが山腹を覆い
はじき出された男たちのけだるい溜息がアスファルトに這う
自虐で身を衣にして新しい現場に向かう
男たちの嬌声に雑木は何も言わない

刈り倒された雑木の群れを泳ぐ
夢を肴に酒を飲んだ日もあった
はじき出された抑うつを抱え込んではまた
そうして男たちの今がある

油びかりするチェーンソーに給油する
打ちひしがれた心の貝の蓋を抉じ開けてエンジン音が鳴る
ひとつふたつ、男たちはジョークを散らし山林へと散ってゆく

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