区切り。/梓ゆい
 
父を失った悲しみが癒えるとき
棚の奥にしまったままの写真は
寝室であった部屋の鏡台に置かれる。

新しい写真立て
マーブルチョコレートとゼリービンズ。
それらは決して開かれないまま
誰かの口の中で
溶ける瞬間を永遠に待ちわびる。

父を失った悲しみが癒えるとき
「大きい車は怖い。」と
運転を拒んだファミリーワゴンの運転席に腰をかけて
町一軒のスーパーへ
買い物に出かけるのだろう。

寒い冬の日
履きなれないパンプスを片方脱いで
父を乗せた霊柩車を追いかけた。

父を失った悲しみが癒えるとき
私の心と神経はゆらゆらとさまよっているから
「後を付いて行きたい。」とは言わず
三途の川の手前で
もう少し座っていよう。
祖父母と共に歩いてゆく
父の背が見えなくなるまで。


戻る   Point(4)