銀座/たもつ
 
オレンジ色にしばし見入った

トイレを探して三越に入った
ついでにアクセサリーショップのショーウィンドウを覗いたけど
買ってやる相手なんか誰もいなかった

並木通り四丁目の前から目をつけていた小さな喫茶店で
コーヒーを飲んだ
普通のコーヒーだった
そもそもコーヒーの味の違いなんて僕にはわからなかった

腕時計をしているのに和光を見上げて
時計台で時間を確認なんかしたりした
その上にはたくさんのビルに直線で切り取られた青い空があった

銀座

銀座は今日も動いていた
僕一人がいなくったって銀座はきっと動いていた
僕の存在を証明するものなんて
小さな心臓の鼓動くらいしかなくて
それすら隣を歩く恋人の楽しそうな笑い声にかき消された

そういえば国語辞典を持ってなかったと思い出した
小さな心臓の鼓動と角川の国語辞典といっしょに
有楽町から山手線に乗って
東京駅に向かった



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