「歩」の少年/イナエ
 
盤面に行儀良く並んだ歩兵
敵の攻撃を真っ先に受け将を守る
時には味方にも無視され
時には邪魔もの扱いされる歩兵
敵陣深く突入して将となるも
あっさり討ち死に
そして 次には
味方だった将を殺せと命じられる
指し手の意のまま操られる駒

叔父の家の欄間から
見下ろしていた少年兵
幼かったぼくのあこがれだった従兄
家を建て替えられてから
もう掲げられることはなかったけれど
ぼくには今もはっきりと見える

自ら志願した飛行兵
白いマフラーをなびかせて飛び立つ姿
そして
艦砲射撃の中に突っ込み
火だるまになっていった姿
これが国を守ることだと
おのれに言い聞かせて

少年を
煽ったものは誰だったろう
煽らせたものは何だだったろう

          (「蕊」五五号テーマ「歩」の詩より)
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