消えたストール/ボロレシート
艶やかな紫から
薄汚れた灰への
掠れゆく移ろいを
繊細に表現した
大判のストール
三年半の間
眺めて味わい
巻いて恍惚とし
大いに可愛がった
それも先週まで
命無きはずの布が
クローゼットで息する限り
息を殺した
この私は
厄災やら不運やらに
小突かれ
潰され
跳ねられても
布が魅せる夢に抱かれていた
それも先週まで
愛する女性と
桜が舞う池の回りを
歩いたあの日
風避けにと
貸したストールは
何処かへ消えていた
何より許しがたいのは
消えたことに気付かぬ
己の情の浅さ
春は哀しげに唄い
秋は信じがたいほどの叫びを
この身に伝えてくれた
我が友が
今思えば
命運の儚さを
嘆き苦しんでいたかもしれない
我が友が
寄り添っていたのは
そう それも先週まで
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