無題/刀刃子
俺には何もなかった。
持っているとすれば、
会社を経営する父の栄光のおこぼれ位で
それすら劣等感から受け取る気になれず
一人で生活しているうちにもうすぐ30になろうとしている
この間、
仕事で知り合った夫婦が別居するって言うんで
俺はファミリーマートで買ったトリスを持って旦那の話を聞きに行き、
帰ってからエビスビールを飲みながら嫁さんと電話で話をした。
馬鹿みたいな理由だったけど
俺が前の彼女と別れた理由と大して変わらなかった。
ただ違うのは
嫁さんは手首を切ったりタトゥーを入れたりした自己愛満載で
旦那はそんなヒステリックな彼女を『受け入れ』と見せかけた傍観で向き合わないので
俺には救いようがないだろうと思っている。
あの夫婦が俺に救いを求めたのは何故なのかわからなかった。
俺には何も無い。自分のことで精一杯だ。
それでもいつか
俺は結婚をして、子供と遊園地に行かなくちゃならないと思っている。
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