あしたのりんご/たま
 
アップルパイよ」
「……」
 拗ねたこどものような顔をして、アップルパイを見つめていた母は、何を思ったのか小皿を両手に持って鼻を近づけた。
「あらっ、これ……あしたのりんごだわ」 
「えっ、ほんとに?」
 一瞬、なんだかわけがわからなかったけれど、母はアップルパイをつまんでひと口齧ると、目を細めて笑った。
「うん、おいしい」
 テーブルの上のあしたを母はおいしいと言って食べたのだ。カウンターの中の彼に思いっきりウィンクしたら、ほんの少し涙がこぼれてしまった。
 初夏の香りに満ちた潮風に運ばれて、私の夢見たあしたが通りすぎて行く。

 ね、かあさんもうれしい?







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