真夏の家族。/梓ゆい
 
ちの元に。」

時刻は午後18;00
迎え火と線香が
例年よりも強く/明るく燃え上がる。

「何故、声が聞こえないのか?
何故、姿を見ることが出来ないのか?」

誰にも言えぬ疑問を飲み込んだ瞬間
耳元で微かなつぶやきが返答をした。

「それは、あなたが生きているからだよ。」
忘れないで欲しい/忘れていって欲しいと言う半々の望みは
死者の葛藤にもみえる。

(お父さん。お父さん。)

手書きの筆跡は、ここに残されていた。
食べかけの板チョコが、戸棚の奥にあった。
組み立てたカラーボックスはここにあって
それを作った人はもうどこにも居ない。

水は蒸発して
そこにはただ光を失ったグラスが置いてあるだけ。

(手を合わせましょう。ここに居ることを信じて。
話し掛けましょう。伝わることを願って。)

今は泣いている娘たちも
いつかはまた笑い出す日が来るのだろう。

新しい家族の下
小さな子供たちと
父の墓前に手を合わせながら。








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