四番目の息/宣井龍人
 
が経っただろうか。
私は、そっと、緑色の目を持つ小人に視線を投げた。
恐ろしい彼の姿は消え、いつものように桐のタンスが待っている。
いつのまにか、未だ目覚めぬ父母の手が、私のからだを優しく包んだ。
疲れきった私は、やがて、心を開放し、静かに眠りに落ちていく。

恐怖の一夜から何十年という年月が流れた。
しかし、忘れようとしても忘れることが出来ない衝撃の一つになっている。
悩ましい私の心は、今も忘却を拒絶し続けるのだ。

その後、二度と現れなかった緑色の目を持つ黒頭巾黒マントは、いったい何者だろう。
毎日が忙しく甘えられない父母に、私が、錯乱した夢を創造したのだろうか。

今日も爽やかな風に心洗われる日々。
何事もなかったかのように時は刻まれていく。
「もうこんな時間か」、私はそっと時計を見て、めっきり年老いた髪を撫でた。

戻る   Point(19)