海を渡る狼/竹森
 
真昼の砂浜で、
海を渡る白い狼を見た。

もしかしたらあの狼は、
昨晩の月光の速度に付いていく事ができなかった
落ちこぼれの月光の 成れの果ての姿 なのかもしれない。

都会の平らなアスファルトが駆け抜ける狼の爪を粉々に砕くのに対し、
起伏に富んだ海面は、その鋭い爪を傷つける事も、それに傷つく事もせずに、
狼を受け入れる。
狼が一歩その歩みを進めれば、
その圧力が遥か海底の泥を沸き立たせる。
海はきっと、狼を、優しく殺す事だろう。

「白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」

若山牧水の短歌がふと頭に浮かんだ。
白鳥は染まらない。
染まらないからこ
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