鍋の中/為平 澪
 
生肉のままでは 水分が多くて煮えないからと
腹を裁かれ生血を取り出し 三枚におろされた、肉

塩分があらかじめ多いからと 再度合成調味料を
流し込まれ みりん漬けされる

新鮮な生肉であったもが 解体されながら
甘酸っぱくなっていくのを 料理人は楽しんだ

滅多にない食材は 新米シェフが作る、
初めての創作料理として 棚上げされた

調理は深夜に 執行される
まず、腹を裂き腸を取り除き 三枚に卸され
綺麗に押し広げられた
まな板に横たわる口が 何か言いたそうに
死んでいない魚の目をして 相手をずっと睨んでいる

誰もいないはずの 寝台所
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