黒艶姫/クロヱ
鮮やかな椿を思わせる香りを纏い
黒烏の羽 または夜のような髪を靡かせ その女は崖に立っていた。
服は果肉の赤。
見かけないものだが 昔に見た列を成して担がれている神輿に乗っている女が着ていたものだ。
女はここでは場違いだ。
俺は遠目から滑空して見下ろし 風を捕まえながらそう思った。
近づき それでも女には気づかれないような遠さで旋回し
しばらく眺めていた後に ふと女は左手に梅の枝を持っていることに気がついた。
「ほう」
合点がいった。こいつもそうか。
思わず声が出た。
この女で何度目か そういえばと思い出した。
儚い希望を持つ者。身の程知らずと言ったところか。
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