花吹雪。/梓ゆい
返事の無い玄関先。
「ただいま。」と言って
父の姿を待つ。
去年の今頃は/一ヶ月前までは
奥のリビングから父の歩く気配がした。
今は私から靴を脱ぎ
畳部屋の父の祭壇に
「ただいま。」と声をかける・・・・。
「お帰り。遠いのに悪かったねえ。」
いつもと同じように頭を撫でられたようで
火をつけた線香を2本立て
小さな金平糖の袋を一つ
真ん中に置く。
「裏の桜が、5分咲きになったよ・・・・。」
父と見上げた満開の御神木
すぐ近くの団子屋で今年からは4本の注文を取る。
花びらをさらう突風が
「美味しそうだ。」と話し掛ける父のような気がして
「今年は、みたらしにしたよ・・・・。」と
心の中で返事を返す。
「どれ、ひとつ頂戴よ。」
串のうえの団子をひとつ手に取り
春の風に乗りながら
ほくほく顔でほおばった。
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