小糠雨/草野春心
 


  青年は日暮れに
  読みさしの新聞をとじた まもなく一日が終わる
  先刻(さっき)まで心地よかった空調がいまは窮屈でしかない
  握り固めた紙切れに似た 心のなかには何年も前から
  小糠雨がふりつづけている……引き攣った笑いのごとく
  幼い頃ショパンがくれた ささやかなときめきが懐かしい
  ヴィデオに遺るルービンシュタイン その歳に似合わず伸びた背中をいまは羨み
  青年は日暮れに 度の強い眼鏡をとり まったく降るあてもない
  ほんとうの雨が降るのを 待つことに決める



戻る   Point(3)