小糠雨/草野春心
青年は日暮れに
読みさしの新聞をとじた まもなく一日が終わる
先刻(さっき)まで心地よかった空調がいまは窮屈でしかない
握り固めた紙切れに似た 心のなかには何年も前から
小糠雨がふりつづけている……引き攣った笑いのごとく
幼い頃ショパンがくれた ささやかなときめきが懐かしい
ヴィデオに遺るルービンシュタイン その歳に似合わず伸びた背中をいまは羨み
青年は日暮れに 度の強い眼鏡をとり まったく降るあてもない
ほんとうの雨が降るのを 待つことに決める
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