ヨシノさん/nonya
 

ヨシノさんは江戸末期の
北豊島郡染井村で生まれた

生まれながらにして容姿端麗
娘盛りには五枚の花弁を振り撒いて
道行く人を虜にした

染井村のヨシノさんを
なんとしても手に入れたい
新しもの好きの江戸っ子は
いっそのことヨシノさんの
クローンを作ってやろうと企んだ

かくして
ヨシノさんそっくりの
クローンなヨシノさんは
次々と作りだされ

やがて
日本の春の津々浦々で
クローンなヨシノさん達の
可憐な立ち姿を
見かけるようになった

南から北へ
約束を果たすように

土手の上に一列に並んで
校庭の端に静かに佇んで
ビルの谷底で踏ん張
[次のページ]
戻る   Point(20)