ヨシノさん/nonya
ヨシノさんは江戸末期の
北豊島郡染井村で生まれた
生まれながらにして容姿端麗
娘盛りには五枚の花弁を振り撒いて
道行く人を虜にした
染井村のヨシノさんを
なんとしても手に入れたい
新しもの好きの江戸っ子は
いっそのことヨシノさんの
クローンを作ってやろうと企んだ
かくして
ヨシノさんそっくりの
クローンなヨシノさんは
次々と作りだされ
やがて
日本の春の津々浦々で
クローンなヨシノさん達の
可憐な立ち姿を
見かけるようになった
南から北へ
約束を果たすように
土手の上に一列に並んで
校庭の端に静かに佇んで
ビルの谷底で踏ん張
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