13/きるぷ
うと試みているとどこからかそれがやってきて
わたしは遠くに攫われた
しかもわたしはわたしが攫われてゆこうとしていることを
はっきりと自覚しもしていた
目が覚めれば
わたしはわたしが攫われたことで
すっかり前のわたしとは違ってしまっていることを知るだろう
そのように思いながら
眠りの中で眠りにつく夢だった
今日の気分も
そんな夢を見たのが原因なのかもしれなかった
彼女とは東口で待ち合わせていたが
時間になっても彼女は中々来なかった
会うのは久しぶりだったが
それはいつものことだった
時間をつぶすために喫煙所で煙草を吸っていたら
急に周りの音が尖って聞こえてきた
だまし絵の図と地が入れ替わるように
わたしの世界が反転し
急激な不安がやってきた
いつもと違うのはわたしだった
彼女は二十分遅れて到着した
春物のコートの裾がなつかしい調子で揺れて
こちらに向かって来る様子を眺めていたら
何かに許されたような気持ちがした
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