まだ心から笑えないあなたへ/夏美かをる
 
もう二度と心から笑える日は来ないと思います

見たところ私よりも一回りも若いあなたは
これから半世紀以上続いていくであろう
(続いていってほしい)あなたの人生を
一度も心から笑うことなく歩んでいくと
そう言い切っているのか?

未だ慣れることのない異国の夜闇の中で
具合の悪い娘の手を握り締めながら
会ったこともない、恐らくこれからも会うことのない
あなたのことをひたすら考えていた
向けられたマイクに向かって
迷いなくそう答えたあなたの
毅然とした態度を醸す薄い皮膚の内側で
今も渦巻いている慟哭の凄まじさを

今は呼吸が苦しくても、明日になればこの娘は
食事が通る
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