それ/ただのみきや
 
ながら
わたしたちはそれを異なる名前で呼ぶ

運命と呼び摂理と呼び偶然と呼び確率と呼び結果と呼ぶ
割り切れる答えを求めながら魂は地獄を巡る
人は各々おのれの磨いた鏡に映る顏こそ真と思う
政治という鏡 科学という鏡 宗教という鏡 哲学という鏡
歴史という鏡 社会学や人類学という鏡 経済という鏡
鏡を持たず音叉を生まれ持った者は鳴り響いて止むことがない

わたしたちはそれを忘れてしまいたい
わたしたちはそれを忘れることはできない

同じ名を呼びながら違う顏を見つめることも表裏だ
「幸せ」と呼びながら各々違う「幸せ」を夢想する
「善悪」も然り 言葉の定義の問題ではなく複写す
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