それ/ただのみきや
 
わたしたちはそれを知っている
わたしたちはそれについて知らない

刈り入れたものを幸と不幸に仕分け
四角四面の境界で善悪のチェスをする
しかも恣意的に
晴れた日に傘と長靴で出歩く者への嘲笑と
裸で歩き回る者への賛辞は絶えることがない
記念日ばかりが増え死者の声が満ちる

わたしたちはそれを見ている
わたしたちはその顏を知らない

天災の姿であれ人災の姿であれ
前触れもなしに訪れる懇願の余地すらない
奪って往く 日常を 心を いのちを
残されて茫然とし愕然とし憤然として
爆ぜ あるいは 黙し
群れが形成される 孤独な生き物を生む

わたしたちはそれを見つめなが
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