呪縛/nonya
の声は
執拗なドップラー効果
マイクを差し出す優しさなんて
持ち合わせている必要もないよね
喉を掻き毟るのにも飽きた男が
うっかり蹴飛ばした
フンコロガシの背中を破って
生えてきたのは牛丼屋
男は躊躇なく店に入り
スーパー特盛牛丼のツユダクを注文した
ものすごい偶然を完全武装して
男の横に座っている誰か
溶けたバターのような微笑みで
しきりに繰り返す「おかえり」が
どうやら「おかわりに」聞こえるらしく
闇雲にスーパー特盛牛丼をすすり続ける男
試しに「さよなら」って
冷めたコーヒーのような口調で言ってごらん
これ見よがしに牛丼屋の丸椅子から
転がり落ちた男は性懲りもなく
1km四方のプールの真ん中で
溺れたふりを始めるに決まってるから
本当にこんな奴
早く死ねばいいのに
と呪ってはみるものの
うろ覚えの呪文を書いたメモは
男のパンツに挟まっているのだから
まったく始末に負えない
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