術後/草野大悟2
 
も林に殴りかからんばかりに拳を震わせている。林は、顔を伏せ、後退りをした。
 その時、エレベーターが開いた。
 陽子は、ストレッチャーに乗せられ虚ろな目で医師たちを眺め、太郎は、村中を睨み付けたまま、担当医の飯野と共にエレベーターの中へと消えていった。
 村中は、佐藤夫婦に慰めの言葉ひとつかけられず、頭を下げることもできなかった。そのようなことをすれば、自分が執刀したオペが失敗だったと認めるようなものだ、先輩医師たちからそう教わってきた。しかし、何か釈然としないものが、陽子の転院後も村中の胸に強く残った。
 清武リハビリテーション病院の院長は、宮崎学院大学脳神経外科准教授をしていた甲斐真一
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