術後/草野大悟2
 
本調停申立は撤回するということでいいんですね」
 裁判官の両隣に座った調停人も太郎と渡辺を交互に見つめた。
 渡辺が太郎を見た。太郎は、口を真一文字に結んだまま小さく頷いた。
「裁判官の仰るとおり、申立は撤回致します」
 渡辺が答えた。
「ただいま、申立人代理人から本調停撤回の意思表示がありました。したがって本件については、当裁判所としても申立の撤回を決定したいと思います。本当にそれでいいんですね?」
「はい……、結構です」
 震える声で太郎が応えた。
 終わった……。
 村中英一と太郎は、それぞれの心の中で、安堵と苦渋という相反する思いを抱いて呟いた。
 廊下に出ると、新田と
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