桜の友へ/黒木アン
 
父旅立つ三日前
桜便りにまだ早い頃

桜みたいと
いう父に

大きな枝
届けてくれた人あり
啓翁桜…

病室と想う温度に
蕾ひらかれ

弥生そらから
香りたつのは

花散るを
願う
薄桜のふかさ

おなじ痛みの
ひとびとに

半分廊下に漂わせ
大きな花器に
あしらって
向かいに椅子を
おいたなら

花灯りは
ひとびとを誘い
いつしか
つつましい花見へとなり

日の暮れる頃
淡紅の満ちひらき
天を仰いで
逝きました

桜の人の
優しさは
患いの部屋の
大きな明かり

ありがとう

……燃えたっていきました

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