ソメイヨシノ/迷亭うさぎ
ソメイヨシノは
夢想していた
練香を一筋塗った
乙女のように
満開に咲き乱れ
ほのかに満ちる初恋の香り
気まぐれな風に遊ばれて
さやさやと宙に翻ったとき
透き通った蝶の羽(は)に似た
繊細なきらめきを見せた
やがては地面に散ってゆく
儚い命と
知っていながら
ソメイヨシノは
夢想していた
ビロードの湯は生温く
纏わり付いた柔肌に
撫子色を残していった
知らない味を舌に残して
降り注ぐ
朝日の光と恋に落ち
妖しい月夜はたおやかに
艶めく舞に身を任せた
やがては地面に散っていく
儚い命と
知っていながら
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